不眠症の治療について

眠れない状態が続くと不安に思うかもしれませんが、不眠症状は治療することで改善が見込めます。

そして、不眠症の治療は睡眠薬を思い浮かべる方も居るかもしれませんが、「治療=すぐに睡眠薬を飲む」というわけではありません。治療するうえで大切なのは、薬だけに頼ることではなく、「生活習慣や考え方のクセ」を見直すことで、自分自身の力で自然に眠れる状態を取り戻すことです。

ここでは、行動や考え方を医師と一緒に見直す治療方法や、アプリを活用したデジタル治療法といった、いくつかの選択肢についてもご説明します。

治療を始める前に

不眠の背景には、他の病気(睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、うつ病など)が隠れている場合があります。

まずは、医師と生活習慣やストレスがどう影響しているかを確認することが、適切な治療への第一歩です。

医師と一緒に行動や考え方を見直す治療1)2)

不眠症の治療には、不眠の慢性化に関わっている習慣や認知の歪みを見直し、根本的な改善を目指す方法があります。専門の医療機関において、主に対面で実施されている治療の代表的なものが、睡眠衛生指導認知行動療法です。

睡眠に影響を与えやすいものや環境を整えることで、睡眠の質・量・リズムの安定・改善を目指す方法です。

不眠症の治療早期から行うことが推奨されており、「朝の光を浴びる」「寝る前のスマホを控える」「カフェインを制限する」といった指導を通じて、睡眠に良い生活習慣を身につけていきます。

症状の原因になっている認知(考え方)と行動を見直していく治療を認知行動療法といい、中でも不眠症に特化した認知行動療法は「CBT-I」とも呼ばれます。

眠りにくさにつながる生活習慣と身体反応(過覚醒で目覚めすぎてしまう等)に焦点を当てて、それらをカウンセリングなどで修正することにより、寝つきの悪さ、夜間の中途覚醒、睡眠の質の低下といった不眠症状を根本から改善させることを目的として行われます。

多数の研究で認知行動療法の有効性と安全性が実証され、欧米のガイドラインでは第一選択になっている治療法です。日本の治療ガイドラインでは、薬物療法と同時に、状況が許す限り、できるだけ早期から活用することが推奨されています。

睡眠薬を長期服用している場合、認知行動療法を行うことで不眠症状の軽減とともに睡眠薬の減量が期待できるため、減薬や休薬を試みる際にも用いられます。

CBT-Iで行う治療手法の一例

刺激制御法
「ベッド=眠れない場所」と学習してしまった脳に対し、「ベッド=睡眠の場所」と再学習させる方法です。
睡眠制限法
あえてベッドで過ごす時間を短く制限することで、睡眠の「質」を高め、ぐっすり眠れる時間を増やす方法です。
リラクゼーション法
寝る前に行える、心身の緊張をほぐす方法(腹式呼吸、筋弛緩法など)を学びます。

デジタル技術を用いた治療(DTx)

近年、デジタル技術を活用して病気の治療を行う新たな「デジタル治療」が国内外で登場しています。

デジタル治療は「デジタルセラピューティクス(DTx)」とも呼ばれ、中でもスマートフォンを用いて特定の病気の治療を行うことを目的としたソフトウェア(アプリ)については、「治療用アプリ」と呼ばれることもあります。

不眠症におけるデジタル治療は、生活習慣や睡眠に対する考え方・行動を見直すことが重要という考え方に基づいており、CBT-Iを治療原理とした「睡眠衛生指導」「睡眠表(睡眠日誌)」「睡眠制限法」「刺激制御法」及び「認知療法」で構成されたプログラムを通じて行われます。

一般的な健康管理アプリとの違いは?

治療用アプリ等のデジタル治療は、医学的なエビデンスに基づいて設計・開発されており、医療用医薬品や医療機器と同様、厚生労働省から承認を得たプログラム医療機器です。医師から処方されることで使用することができます。

欧州ではデジタル技術を用いた認知行動療法(CBT-I)が第一選択の治療法として推奨3)4)されるなど、不眠症治療においてもデジタル治療が用いられるようになってきました。日本においても治療用アプリが厚生労働省から承認され、治療選択肢の1つになっています。

医療機関での診察以外でも、日常生活の中でも取り組みやすいため、治療を継続しやすい点も強みです。薬による身体への影響や休薬の必要性、患者さんのライフスタイルなどを考慮した上で、医師の判断によりデジタル治療が用いられる場合があります。

睡眠薬による治療

症状が重く非薬物療法だけでは改善が難しい場合や、つらい症状を一時的に和らげるために、対症療法として睡眠薬(睡眠導入剤)が使われることもあります。睡眠薬には様々なタイプがあり特徴が異なるため、お困りの症状に合わせて医師が処方します。

具体的には、下記の3種類の薬剤が医療機関において主に処方されています。

寝つきを良くするタイプ GABA受容体作動薬 1)2)

GABA受容体作動薬は、脳の興奮を抑えるGABA(γ-アミノ酪酸)の働きを強め、中枢神経の活動を抑制することで不眠症状を改善する薬剤です。

自然な眠気を促すタイプ メラトニン受容体作動薬 2)

メラトニンとは、脳の松果体から分泌されるホルモンで、睡眠や体内時計に深く関わっています。メラトニン受容体作動薬は脳内のメラトニン受容体に作用することにより、睡眠のリズムを整え、自然な眠りを促す薬剤です。

夜中に目が覚めるのを防ぐタイプ オレキシン受容体拮抗薬 2)

オレキシンとは、脳の視床下部で作られ覚醒状態を維持する神経伝達物質です。オレキシン受容体拮抗薬はオレキシンの働きを抑えることにより、脳を「覚醒」から「睡眠」の状態へ切り替えることにより眠りを促します。

現在、睡眠薬を用いた方法が不眠症の治療の中心となっていますが、基本的に睡眠薬は無期限で服用するものではありません。長期の服用、高用量、多剤併用などによる薬物依存や認知機能障害などの副作用リスクが課題となっており、適切な時期に減薬や休薬することも必要と言われています。1)

ただし、すでに睡眠薬を服用している方で、薬を減らしたい・やめたいと考えている場合でも、自己判断で量を変更したり急にやめたりせず、医師に相談しましょう。

参考文献

  • 1) 厚生労働科学研究班・日本睡眠学会ワーキンググループ作成:「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」. 2013年10月改訂 https://jssr.jp/files/guideline/suiminyaku-guideline.pdf
  • 2) 睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会 内山真 編: 睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版. 東京, じほう, 2019, pp. 104-108, 121-125.
  • 3) Dieter Riemann et al, Sleep Res. 2023 Dec;32(6):e14035
  • 4) NICE(National Institute for Health and Care Excellence), Medical technologies guidance, Published: 20 May 2022